『グアバの香り ガルシア=マルケスとの対話』1ーマルケス断章

どこに愛があるというのか!ー『百年の孤独』1 で、「しかしこの場面の描写は、これまでどんな書物の中にも見たことがないというような荒唐無稽なものではない。ちょっと聖書を読んだことがある者なら、ここから次のような箇所が連想されるはずである」「聖書の中には死なないで天に上げられる者が出てきたりするのである」と書いたのだが、親友との対談の中でガルシア・マルケス自身がこんな風に語っているのを見つけた。

ーーいつから小説に興味を持つようになったんだい?

 もっと後だ。大学の法学部に入って一年目(たしか十九歳くらいだったと思う)、その時に『変身』を読んだ。(略)今でも出だしの一節はよく覚えている。「朝、胸苦しい夢から目をさますと、グレーゴル・ザムザは、ベッドの中で、途方もない一匹の毒虫に姿を変えてしまっていた」。そこを読んで、「なんだ、祖母が話していたのと同じ語り口じゃないか」って考えたんだ。小説に関心を抱くようになったのはそれからだよ。その時に、人類がこれまで書いた重要な小説を全部読もうと決心したんだ。

ーー全部?

 そう、聖書からはじめてすべて読もうと考えた。聖書というのは次から次へと幻想的な出来事が語られるすごい本だね。それで法学部で学位をとることも含めてすべてをなげうって、ひたすら小説を読み続けた。小説を読みまくり、そしてものを書きはじめたんだ。(P・A・メンドーサ=聞き手『グアバの香り ガルシア=マルケスとの対話』p64)

 

そしてさらに、

 ぼくたちはみんな何らかの先入観にとらわれている。精神の自由を標榜する人間として言わせてもらえば、理屈上は性的な自由に制限をかけるべきではないと考えている。しかし、実際はぼく自身カトリック教育を受け、ブルジョア社会で育ってきたので、そこで植えつけられた先入観から逃れることはできないんだ。つまり、みんなと同じようにぼくも二重のモラルにがんじがらめにされているんだよ。(『グアバの香り』p152)

 

おそらくマルケスは大人になってから、キリスト教を捉え直し、キリストを受け入れたはずだ。

 

 

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