2021-01-22から1日間の記事一覧

『コレラの時代の愛』と、肉体を持つということ

彼女は浣腸をするときに手伝い、先に起きて、眠っている間はコップに入れてある入れ歯を磨いてやった。(ガルシア・マルケス『コレラの時代の愛』p497) 赤ん坊となってこの世に生まれて来られたイエスはお襁褓もかえて貰い、体も洗って貰っただろうが、『コ…

『コレラの時代の愛』と「あなたは…わたしのために体を備えてくださいました」(ヘブライ人への手紙10:5)

素裸の遺体は硬直し、奇妙な具合によじれていた。目は大きく見開かれ、身体は青黒くなり、昨夜会ったときより五十歳ばかり老け込んだように思われた。瞳孔は透き通り、ひげと髪の毛は黄ばんでいて、縫合の跡が見えるごつごつした古傷が腹部を横切っていた。…

『コレラの時代の愛』と「そして言は肉体となり、わたしたちのうちに宿った」(ヨハネ福音書1:14)

ふと、アメリカ・ビクーニャのことを思い出して、胸を刺し貫かれるような痛みを感じて身をよじった。これ以上真実に目をつむっているわけにはいかなかった。彼はバスルームに閉じこもり、ゆっくり時間をかけ心ゆくまで泣きつづけた。そうしてはじめて彼は、自…

『コレラの時代の愛』とビクーニャ(ラクダ科)

名前をアメリカ・ビクーニャといった。家族のものは遠縁にあたるフロレンティーノ・アリーサを身元引受人にして、二年前に彼女を漁村のプエルト・パードレから彼のもとに送り出した。(ガルシア・マルケス『コレラの時代の愛』) ビクーニャはラクダ科の生き…

『コレラの時代の愛』と「ラーハム=子宮から広がる思いやり」

主よ、あなたの憐れみは豊かです。(詩編119:156) 「慈しみ」や「憐れみ」を表す言葉で良く聞くのは「ヘセド」という言葉だが、156節の「主よ、あなたの憐れみは豊かです」の「憐れみ」は、「ラーハム」というヘブライ語で、辞書には「胎児をかわいがるよう…

『コレラの時代の愛』とローマ人への手紙7章1~4節

ローマ人への手紙7章1節から3節までの聖書朗読を聞いて、ガルシア・マルケスの『コレラの時代の愛』の一節を思い浮かべた。 先ず、ローマ人への手紙から引用する。 それとも、兄弟たちよ。あなたがたは知らないのか。わたしは律法を知っている人々に語るので…

『コレラの時代の愛』からティリッヒ神学へ

「これがどういうものなのかずっと分からなかったんです」と彼女が言った。 彼はいちいちその場所に彼女の手を導きながら、教師のように生真面目に説明してやり、彼女は彼女で模範的な生徒らしくおとなしく言いなりになっていた。頃合を見て彼は、明かりをつ…